小説 川崎サイト

 

神の声

川崎ゆきお



「どうかしていたのです。まとまな神経ではなかったのです」
「今は?」
「まともです」
「その時だけ、まともじゃなかったんだな」
「判断できる状態ではなかったのです」
「今は?」
「できます」
「つまり、まともな人格ではなかったのですね」
「そうです」
「今は」
「まともです」
「どうして?」
「えっ?」
「どうして、切り替わるの」
「分かりません」
「どこから切り替わるの?」
「気が付いたら」
「いつ気が付くの?」
「終わってから」
「何が?」
「判断ができない人格から戻った時です」
「以前から、そうなのかね?」
「分かりません」
「今は正常なんだね」
「はい」
「我を忘れた行動というのがあるね」
「はい、あります」
「熱中しているか、興奮してやってしまうとかだ」
「はい」
「それはまともなんだよ。正常なんだよ」
「そうなんですか」
「君のはそれだ。つい、かっとなっての部類だ」
「自分で判断した覚えはありません。判断できればやってません」
「その直前は、まともだったのだろ」
「えーと、それは」
「今判断しているのかね。思い出せばいいだけのことだよ」
「その前から、自分がどこかへいってました」
「どれほど、前なの? 何時間前か、数日前か?」
「ああ、よく覚えていません」
「君は、今もしっかり判断しているね」
「していません」
「じゃ、なぜ即答できない。答え方を考えているからだ」
「違います」
「じゃ、判断ができなくなったのはいつだ?」
「数時間前から、精神的におかしくなりました」
「ついに精神という言葉を使ったね。知っているんだろ」
「何のことですか」
「神の声を聞いたとかでもいいんだよ」
「はい聞いたような気がしました」
「今、判断を誤ったようだね」
「あ」
 
   了


2008年05月29日

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