小説 川崎サイト

 

いつも通り

川崎ゆきお



「さて、どうしたものか」
「また、思案ですか」
「毎回毎回悩ましいことだ」
「決まり通りの動きではいかがですか」
「それは心がけておるがな。それでは飽きるのだよ」
「いつも通りのパターンでよろしいのでは」
「だから、飽きると言ってる」
「そのかわり、思案する必要はありませんよ。決まり通りに動けばいいわけです」
「そうなんだがね。それじゃ面白くない。新味がない」
「では、思案なされては」
「まあな」
「では、これで失礼します」
「ああ、松井君」
「はい」
「もう帰るのかね」
「定時ですから」
「君はどう思う」
「あのう、定時ですから」
「そうか、分かった」
「部長も帰られては」
「この件を決めるまでは」
「いつも通りで、決めれば、すぐに帰れますよ」
「そうだな。帰るか」
「じゃ、私はこれで」
「松井君」
「はい」
「帰り、一杯どうだ」
「それは、いつも通りのパターンですよ」
「そうか」
「新味がないですよ」
「そうだな」
「それでは、私はこれで」
「なあ、松井君」
「はい」
「占いを信じるか」
「その話はまた明日」
「そうか、帰るところだったね」
 松井は部長室から出て行った」
 部長は一人、思案に耽る。
 いつも通りでやるか、別の方法でやるかだ。
 だが、いつも、いつも通りに決まってしまう。冒険することのリスクを考えてのことだ。
 部長は変化を期待した。それはいつも通りでは飽きるからだ。
 翌朝、松井が部長室に入ってきた。
「決まりましたか」
「ああ、やはりいつも通りで行くよ」
「そうですか」
「君もそれがいいだろ」
「はい、いつも通りが一番です」
「僕も飽きるのに飽きた」
「あ、はい」

   了


2008年06月20日

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