小説 川崎サイト

 

闇に落ちる

川崎ゆきお



 どこをどう通ってここへ来たのかは吉田には分からない。記憶がないのではない。過程は覚えている。
 分からないのは、どうしてここに立っているかだ。
 振り返れば、その過程は分かる。来るべきして来たような感じだともいえるし、うろうろしている間に、ここに来てしまったともいえる。
 つまり、どうとでもいえる。
 それは、ここへ来るのが最初からの目的ではなかったためだ。
「迷っているのかもしれない」
 それなら、この迷路はまだまだ続く。
「人生は迷路じゃよ」
 暗闇の中からしわがれた声が聞こえる。
「運命の神とでもいっておこう。自己紹介じゃ。君にはそう呼んだほうが分かりやすいであろう」
「ここはどこなのですか」
「溜りの闇じゃ」
「現実の場所ではないのですね」
「現実の場所じゃが、君には現実は見えておらぬじゃろ。ただの暗がり」
「そうです」
「闇に落ち込んだのよ」
「確かに落ち込みました」
 まさに目の前が真っ暗になる状態の真っ只中に吉田はいた。
「これは一瞬なんでしょうね」
「まあの」
「抜け出せるでしょうか」
「ああ、すぐにな」
「運命なのでしょうか」
「定めと思えば、納得しやすいじゃろ」
「この先僕はどうなるのでしょうか。方向が分かりません。この挫折感は大きいです。こんなはずではなかったのです」
「君が設計した人生と現実とは違ってくる」
「大きな違いはなかったように思えますが」
「それは最近になってからじゃろ。もっと昔は、今の君を、君は想像できたかね」
「いいえ」
「君は過程を見てきたため、なるようになったように見えるのだ。結果を見て、話を作り替えてしまうのよ」
「今の僕の状態も運命なのですか」
「人智を超えところに浮世はある」
「次に僕は何をすればいいのですか。それを伝えるためあなたは現れたのでしょ」
「一寸先は闇」
 運命の神が消え、暗がりも消えた。
 明るくなると、上司の無表情な顔が現れた。
「左遷じゃないからね、これは」
「はい」

   了



2008年07月15日

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