小説 川崎サイト

 

青い龍

川崎ゆきお



「眠いのだがね」
 吉田は風邪薬を飲んだため、眠くなった。
「この、うとうと感は悪くはないが、何もできないねえ」
「風邪のときは、何もしないで、安静が大事ですよ」
「そうだね。でも、この状態では眠ってしまいそうだ」
「はい、会議は眠っていてください」
「そうだね」
 会議中、吉田は眠っていた。目がさえている場合でも、黙って聞いているだけなので、眠っているのとかわらない。
「目を覚ますのじゃ、青い龍」
 突然声が聞こえた。吉田は、覚えていないが、夢でも見ていたのかと思った。
「目覚めのときが来た。眠りから蘇るのじゃ」
 まだ聞こえている。
 吉田は、目を開けた。
 会議中で、青いスーツの社員がプレゼンをやっていた。誰かが聞いているはずだが、これらは儀式であることを、みんな知っている。
 それはいい。
 それはいいが、この声はなんだろう。どこから聞こえてきているのだ。
 吉田は大きく目を見開いた。
 その表情を見た社員は驚いた。
 目玉が飛び出るのかと思えるほど大きく開いたからだ。目玉がピンポンように回転した。
「部長」
 横の次長も吉田の表情に気付いた。
「いや、続けてくれ」
「青い龍よ。いよいよその日が来た。さあ、立ち上がるのじゃ。東で赤い龍も立った。時期が来たのじゃ」
 吉田にとって、それは空耳ではなく、実際に聞こえているように感じられた。
「青い龍を知っておるかね」
 部長の、この発言内容が伝わらなかったようだ。
「わしは青い龍らしい」
 全員きょとんとした。
「わしは、西の青い龍らしい」
「それは、どういうことでしょうか」
 次長が皆に代わって聞く。
「知らぬが、立ち上がるときが来たようじゃ。目覚めるときが来たようじゃ」
 プレゼン中の社員は棒立ちのまま動かない。
「黒い龍が北の空から飛んできた。地球の滅亡は近い。立ち上がるのじゃ」
 全員がざわめいた。
 やがて吉田は、がくんとテーブルに上体を倒した。
「夢で、うなされていたみたいですね」
 次長はプレゼンを続けさせた。
 
   了


2008年07月21日

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