小説 川崎サイト

 

猛暑

川崎ゆきお



「こう暑いと、気が狂った人間も出るでしょうなあ」
「暑いとそんな怪談もありえましょう」
「いや、怪談ではなく、狂人ですよ」
「狂人は暑さに関係するのですかな。四季を通じて狂人は狂人だと思うが」
「まあ、にわか狂人ですよ。急性狂人のような」
「そうですなあ。高熱を発したとき、狂気の淵を見たことがあります。あれに近い状態でしょうなあ」
「そうです。暑いと、気がおかしくなる」
「確かに」
「それで、山崎さん」
「何ですか田中さん」
「その急性が来たようです」
「それはいけない。冷やさないと」
「いや、熱が内部にこもって爆発しそうです」
「田中さん、まだあなたは正常だ。今のうちに何とか」
 山崎は、コップの水をぶっ掛けた」
「まだ、来そうです」
 山崎は水道の水をバケツに入れ、それをぶっ掛けた」
「それ、生ぬるいです。山崎さん」
「田中さん。まだあなたは正常だ。冷蔵庫に頭を突っ込まれては」
「はい、そうします」
 数分で、狂気は去ったようだ。
「危ないところでしたね。田中さん」
「何でしょうなあ。頭の中に熱気がムアーンと、襲ってきたのです」
「熱いのは頭だけだったのですかな」
「首から下ねえ。それはチェックしておりません」
「病院で検査を受けられたほうがよろしいですよ。それ、狂気とかではなく、別の病気かもしれませんから」
「はい、そうします。脳にできものでもできているかもしれませんなあ」
「それが爆発したら、大変でしょ」
「はい、大変です」
「それで、狂気の淵まで、行きましたかな」
「はい、近くまで、もう少しで、落ちるところでした」
「どんな感じでした?」
「色数が少なくなり、それでいて極彩色のようにきつい色になっておりました」
「この部屋の中がですか」
「はい」
「それは、やはり狂気ではないと思いますよ」
「その後、神経が苛立ち、ぎゃーとなりそうになりました」
「正常なうちに、病院へ」
「はい」

   了

 


2008年07月27日

小説 川崎サイト