小説 川崎サイト

 

墓地のあった場所

川崎ゆきお



「ここに石仏や墓があったのですよ」
 吉岡は高速道路のわき道で語る。
「墓は古いものでした。お地蔵さんや、わけの分からない石仏も、大昔のものです。江戸時代でしょうか」
「高速道路で、消えたわけですね」
「この土地を持っていたのが、あの農家です。まあ、手放さないと道路ができませんからねえ。墓も石仏も、その農家の庭というか、そんな感じでした」
「村の墓地じゃないのですか」
「村の墓地は別にあります。何箇所かにあるんです。ここは平野部で、裏山がないので、田んぼの一つを墓地にしていたんでしょうな。まあ、古い時代の話ですよ」
「でも、村の墓地なんですから、違う場所に移したとかは」
「もう、移す場所がないのですよ。それで、そのまま消滅です」
「神社の裏にある石仏は?」
「ご覧になりましたか。石仏だけはそこへ運びました。墓は無理でしたがね」
「でも、この村の先祖代々の墓とかでしょ」
「少し遠いですか、分譲墓地で、新しい墓石で、先祖の墓を守っているようです。だから、消えた墓地は、もう意味はないのです」
「ここを通ると、寒気がするんです。やっと原因が分かりました」
「やはり、何かが残っているのでしょうなあ」
「だと、思います」
「でも、この村のご先祖さんたちの霊とは思えないのですよ」
「当然です。もっといい場所で、墓があるのですから」
「では、何でしょう。この寒気は」
「石仏関係でしょうね」
「それも神社の裏に移したのでしょ」
「ここに置いておかないといけないような関係の石仏があったかもしれません。よく調べていませんからね。もう、何のために作った石仏かも分からなくなってますから」
「時代はいつなんですか。江戸時代の」
「一度郷土史の先生が調べてくれたのですがね、他の村と同じで、やはり飢餓関係じゃないかって」
「飢餓?」
「食べるものがなくなって、餓死者が出たのでしょうね。その供養の石仏が多いとか」
「それが寒気の原因じゃないと思います。移しても文句はでないと思いますよ」
「行き倒れで亡くなった人とかも考えられますが」
「何か、祠とかを作ったほうがいいのではないですか」
「寒気程度なら、問題はないと思います」
「詳しい解説ありがとうございました」
「いえいえ」

   了

 


2008年08月1日

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