少女モモ
川崎ゆきお
「一つだけ望みが叶えられる」
魔法使いは、それだけ言い残し森の奥へ消えた。
少女モモはドングリを握った。
握って願い事をすれば叶うという。
モモは消えたボーイフレンドを探すため、村を旅立ち、もうひと月となる。
占いのお婆さんから北へ向かえと告げられたのみ。
このひと月、飲まず食わずで旅していたわけではない。行く先々で親切な農夫や狩人や商人の世話になった。
モモがドングリを握っているところに少年が現れた。
小作人の息子エフは薪を拾いに森に来ていた。
「どうしたの? こんな淋しいところで」
「村長さんが、この森の魔法使いが願い事を聞いてくれると教えてくれたので来たの」
「おいらはここに毎日来ているけど、そんな魔法使いなんて見かけたことなんて一度もないよ」
「でも、いたんだ」
「それで願い事は叶ったの?」
少女はドングリを見せ、説明した。
「それじゃ、ボーイフレンドと会えますように…とかを願ったら」
「うん」
「邪魔だったら行くよ」
「ありがとう。でも、何をお願いすればいいのか、もう一度考える」
「旅に出た目的はボーイフレンドを探すためだろ。他に願い事ってあるの」
「そうだけど…」
少女は歯切れが悪かった。
「幸せだね君は…。みんなから親切にされ、魔法使いから願い事の叶うドングリまで貰えて…」
「うん」
「おいらなんか、お父さんの手伝いで学校にも行けないし…」
「エフ君は願い事はないの」
「願い事だらけだよ。彼女も欲しいし、美味しいものも食べたいし、街で暮らして学校へ行ってお金持ちになりたいし。いっぱいいっぱいあるよ」
「そうなんだ」
「でも君のように魔法使いは来てくれないしね」
「魔法使いがこの森にいることを教えてくれたのは、この森の村長さんだよ」
エフは村長の顔を思い出した。村一番の土地持ちだった。
「君は今、村長の屋敷にいるの」
「そうだよ。事情を話したら、同情してくれたの。いっぱいお世話になってる」
「旅費とかはどうしてるの?」
「町や村でお手伝いとかして稼ぐの」
エフはモモのきゃしゃな体を見た。
「いくらにもならないだろ」
「でも、親切な雇い主さんが宿を貸してくれたりするし、お食事も御馳走されたりするし…」
「事情は分かったよ」
「えっ?」
「君は、そのドングリでボーイフレンドを、すぐに呼べるよ。でもそれができなくなっちまってるんだろ」
少女モモは目を閉じた。
了
2005年10月22日