小説 川崎サイト

 

神様のいる神社

川崎ゆきお



 神様が出たという神社がある。
 噂の元は村の子供たちだ。
 村岡はそれを信じてみたくなり、山里にある神社へ行った。
 山間にある村の鎮守さんのようだ。
 八幡神社となっている。全国いたるところに、こんな神社はあるだろう。
 神社は山の斜面にあり、そこまで階段が続いている。
 村岡は息を上げながら登りきった。
 境内の砂地が真っ白く見える。
 激しい運動をやった後、白っぽく見えるようだ。
 しかし、これを神々しさと受け取った。
 社殿は古びており、所々板がはがれている。
 左右の狛犬も風化したのか表情が浅い。
 社殿は古いが賽銭箱は新しいが、中を覗くと落ち葉がたまっている。きらりと光っているのは一円玉のアルミの色だ。
 山岡は社殿の中を覗き込む。
 御神体は鏡だ。
 左右に古代の武者姿の人形が立っている。左の武者は大弓を、右の武者は薙刀を持っている。五月人形のようだと村岡は思った。
 その思いを裏切るような、うらぶれた老人が立ち上った。
 今まで隅っこで寝転んでいたのだろう。
「ホームレスか」
 村岡は、これが神の正体で、噂の元になった原因を知り、がっかりした。
「用か?」
 立ち去ろうとする村岡に、しわがれた声がかかる。
「わしは神だ」
 ホームレスがふざけているのだろうと思い、村岡は無視して立ち去ろうとした。
「わしに用があるのだろ」
「寝巻きですか?」
「これは、帷子じゃ」
 頭も髭も真っ白な老人だ。
「名乗ると怖がるので、やめるが、願いがあるなら、申してみよ」
 村岡は本物の神様と接触したくなかった。神は内にあり、外にはないと思っている。また、内の神のほうが落ち着いて拝める。
「聞くだけは聞く。それだけじゃ。願いをかなえてはやれんがな。聞き役じゃよ」
「あなたは村の人ですか」
「そうだよ」
「賽銭は必要ですか」
「一円でもええよ」
「どうして、神様の役をやっているのですか」
「村おこしだ」
「分かりました。神様がいる神社として、ブログで紹介しておきます」
「そうか」
 村岡はデジカメで神様を写した。
 神様はにこっとした。
 
   了


2008年08月22日

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