小説 川崎サイト

 

侵入者

川崎ゆきお



「ここは村か」
「町ですよ」
「昔は村だったんだろ」
「そんな昔のこと知りませんよ」
「土地の人じゃないのか」
「この町の人間ですよ」
「昔からの人では……」
「何か用ですか」
「この村の特産物とかを見たい。名物とか」
「知りませんよ」
「ないのか」
「詳しく知りません。そこの商工会で聞いてみては」
「ちょっと聞いただけだ」
「観光ですか?」
「そうだ」
「この町、観光地じゃないから、何もありませんよ。土産物屋もないでしょ」
「そうだな。まあ、寺社でも見て帰るさ」
「わざわざそのために来たのですか」
「そうだよ。観光だ」
「どちらから」
「都市からだ」
「じゃ、遠いですねえ。観光地なら、他にもいろいろあるでしょ」
「さっきのバスで、偶然降りたんだ」
「あのバス一日四便ですよ。よく駅前で乗れましたね」
「偶然発車前だったんだ」
「でも、あの駅前も何にもないでしょ」
「知らなかったが、そうだった」
「あなた、本当に観光客なんですか」
「そうだよ。知られていない観光地を訪ねるのが趣味でね」
「そういう旅行もあるんだ。でも、この町、ホテルも旅館もないですよ」
「長話が過ぎた。行く」
「気をつけてください。この町、不審者に対して過剰防衛しますからね。僕だって巻き込まれて、ひどい目にあったほどですからね」
「土地の人だろ」
「町の人、全員顔見知りじゃないですからね」
「分かった。ありがとう」
 男はバス停での長話を終えると、メイン通りを歩き出した。
 すると、後ろから、人相の悪い連中が尾行しだした。
 男はすぐにそれと気付いた。
 町の中ほどまで来たときには完全に包囲されてた。
 同じ時刻、町はずれの通学路で、テレビで報道されるような事件が起きた。

   了


2008年09月03日

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