小説 川崎サイト

 

達磨

川崎ゆきお



「速いのですよ。あの達磨」
「ダルマですか」
「そう達磨」
「不思議を通り越していますね」
「だから、ここに来たのですよ。あんなの見たら、ここに来ないと駄目でしょ。見た側の問題なんだし」
「速いとは?」
「足が速いんです」
「達磨は座っているんじゃないですか」
「立ち上がって走るんですよ。凄い太ももで、裸足です」
「大きさは?」
「手まりほどの大きさで、真っ赤」
「目は?」
「両方開いてます。ぎょろりと見開いて」
「目も動きますか」
「動きますよ。眉も動いて、表情もしっかり」
「それはいけませんねえ」
「いけないでしょ。そんなの」
「走るのですね」
「にょきっと出た、蛙の脚のような」
「何をやっているんですか? その達磨は」
「私を追い掛けまわすのですよ」
「ご自宅で、ですか」
「そうです」
「追いかけて、その後は」
「登ってきます。私に」
「手まりほどの達磨でしょ、捕まえて投げればいいんじゃないですか」
「触れませんよ。怖くて」
「それで、あなたの体を登り、どうするんです。その達磨」
「滑り落ちますね。別に振り払った覚えはないんですが、落ちます」
「手は」
「足のように、にょきっと伸びてます。腕と脚が生々しいんです。胴体は置物みたいに、赤いのですが、手足は丸出しなんです」
「とってつけたような手足なんですね」
「そうです」
「それで、あなたから落ちた達磨は、その後、どうします」
「知りません。私は家から逃げて、外に出ます。そうするともう追いかけてこない。しばらくして、家に入ると、達磨はいない。ところが、また出るんですよ」
「その間隔は」
「数時間のときもあるし、二三日後のこともあります」
「大変ですねえ」
「あんなの見たら、ここに来るしかないでしょ。私にいったい何が起こったのか、分析してください」
「分かりました。お祓いしましょう」
「えっ?」

   了


2008年09月05日

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