小説 川崎サイト

 

初心者の墓

川崎ゆきお



 村の外れに初心者墓地がある。
 冒険者が集う村で武装した人間で賑わっている。
 彼らは僻地の村から出てきた。そして、冒険のスタート位置であるこの村で訓練を受ける。
 訓練は難しいものではなく、誰でも卒業できる。
 初心者の墓は村の片隅の中にある。この村に昔から住んでいる村民の墓よりも多い。
 村の人口のほとんどは僻地から来た冒険者で、大金を払って訓練を受け、ここから旅立つ。
 村は冒険者用の防具や武器や、薬草を売ることで、かなり潤っている。
 この村を、もし山賊が襲えば、かなりの財になるはずだ。
「見ましたか……」
 武器屋の主人が言う。
「見ました」
「おまえさんは新入りの冒険者だが見込みがある」
「どうしてですか」
「初心者の墓を発見したのじゃからな」
「分かりますよ。別に隠されていなかったし」
「いやいや、ここに来る新入りは、村には興味はない。すぐに旅立とうとする」
「私も、早く行きたいのですが、発見したのは迷ったからです」
「ほう……」
「旅立とうかどうかで迷ったんじゃなく、村で道に迷ったんです」
「ああ、そう……」
「この村、広いですから。私が生まれ育った村の十倍はあります。家も多いし、村の中に森もあるし」
「ああ、そういうことか」
「それで、初心者の墓って何ですか」
「若者の墓じゃよ」
「訓練の時、教官が言ってましたが、蘇生魔法で何度でも生き返れると」
「ああ、あの新人たちは死んだままじゃ」
「どこで亡くなられたのですか」
「村を出てすぐの所じゃ」
「橋を渡る前ですか」
「そうじゃ」
「あそこにいる魔物はレベル1で、誰でも倒せますよ」
「いや、それができなかった冒険者もいるんだ。戦い方も知らないままやられたのじゃ」
「訓練は受けたはずなのに」
「武器と防具は訓練所で支給されたじゃろ」「はい」
「それを装着しないで、鞄の中に入れっぱなしのまま旅立ったのじゃ」
「なるほど」
 ただの準備不足による事故のようなものだ。しかし、その理不尽さでやる気を失い、蘇生を拒否して墓入りしたようだ。
 
   了

 


2008年10月5日

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