小説 川崎サイト

 

火の玉

川崎ゆきお



 大きな池がある。
 その北側の土手に火の玉が出る。
 池は市民の憩いの場となっており、土手は遊歩道になっている。
 そこを歩いている人が夜明け前に目撃した。
 火の玉はそれほど火力はないようで、よく見ないと分からない。
 ゆっくり走っている自転車の電球程度だ。 噂は遊歩道散歩者によって広まり、行き着く人へ行き着いた。
 平常でも姿を現さない人間で、怪現象に詳しい青年だった。
 青年はそれを妖怪と判定した。古典的妖怪のほとんどが火の玉が多いためだ。
「火の玉は火の玉でしょ」
「それは人魂で、妖怪じゃない」
「じゃ、人魂と火の玉はどう違うんだ」
「人魂は、幽霊が出るときのオプションです」
「じゃ、なんて言う妖怪なんだ」
「それは分かりませんが、油火かと思われます。昔からこのあたりに出ると、古い記録の中にあります」
「そんなの聞いたことないぞ」
「じゃ、地元に人に聞いてみれば分かると思います。昔からいる妖怪のはずです」
 青年は頼まれて調べることにした。
 しかし、もう昔から住んでいるような古老はいない。
 それでも古い農家のお爺さんを見つけ出しので、話を聞きに行くことにした」
 古老は介護ホームにいた。
「油火?」
「はい」
「あんた、よくそんなことを知っておるのう。油火なんて聞くのは子供の頃以来じゃ。最近のことは忘れたが、そのことなら覚えておる」
「やはり油火は実在するのですね」
「知っておるだけで見たことはないがな」
「油火は妖怪ですかね」
「そうじゃ、狐火のようなものかのう。もっとも狐火もわしゃあ見たことはないがな。最近見るのは昔の戦友がぼろぼろの軍服で庭先に立っておるのが見える」
「どこの庭ですか」
「この下の中庭じゃ」
「あ、その話はまた……」
「油火はのう、川上の山の麓にある寺の油を盗んだ妖怪の仕業なんじゃ」
「油火は妖怪なんでしょ」
「妖怪が油火の姿で出るんじゃ」
「油盗みの妖怪の姿は」
「さあ、正体は分からん。盗んだ油に火をつけて川を下り、あの池の土手までやってくるんじゃ。そこが終点じゃ。その妖怪の寝床があってな。たまに火をつけておるんだと」
「その情報は?」
「親戚の爺さんが話しておった」
 青年は、この貴重な昔話を散歩者たちに話した。

   了

 


2008年10月6日

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