小説 川崎サイト

 

久しい人

川崎ゆきお



「久しぶりですねえ」
「そんなに経つか」
「しばらく来なかったでしょ」
「そうだったか」
「何か事情でも」
「別に……」
「気になることがあれば言ってください」
「いいのかね」
「はい、いろいろな意見を参考に、やっていこうと思っていますので」
「言えば、ここを否定することになる」
「いいですよ。どんな意見でも」
「それはないだろ。礼儀がある」
「それが原因で、最近来られなくなったのですか」
「そうだ」
「原因は何でしょう。後々の参考に、是非」
「参考にするだけかね」
「実行も」
「それは出来ない実行だね」
「意見として、聞きたいです」
「だから、聞くだけでは苦痛だろ」
「だから、参考に」
「実行できないことだから、言っても仕方がないだろ」
「今は、出来なくても、将来必要な情報となるかもしれませんので」
「未来永劫出来ないと思うがね」
「はあ」
「無理な意見だ。言っても無理だから、無意味だから言わないだけ。これはマナーだ」
「そう言われると、ますます聞きたくなります」
「言うと、わしは、ここに来られなくなる」
「そんなに重い」
「ああ、重いよ。だから、簡単に参考までにと聞かないことだ」
「分かりました」
「何が?」
「岸田さんの配慮が」
「配慮?」
「言うと、岸田さんがまずいことになると、心配されているのですね。そんな遠慮はいりません。また心配もいりません」
「いりませんか……」
「安心して、おっしゃってください」
「じゃ、明日から、わしは来ないことになるが、言ってみるか」
「はい。安心して、言ってください」
「君がね」
「はい」
「気にいらんのだよ」
「はい」
「はいじゃないだろ。はいじゃ」
「そんなことですか」
「これは解決せんだろ。君がここをやめれば解決するがね。それは出来ないだろ」
「ああ、まあ」
「こんなこと言った限り、わしは二度とここには来られん。余計なことを言わすからだ」
「あ、はい」
 
   了


2008年10月16日

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