小説 川崎サイト

 

ある消費者

川崎ゆきお



「私の人生はものを買い続ける人生なんですね。消費が私の人生なのですよ」
「それには収入が必要ですね」
「当然ですよ。でも、買うための資金です」
「衣食住は?」
「どれもお金が必要でしょ。これも消費でしょ」
「つまり作田さんは消費者なんですね」
「それはですね。考えなくても分かることなんでしょうが、あたりまえの、普通のことなんです。それを最近知りました」
「浪費は罪深いですよね」
「そうですね。自分自身がね。でも、それで、世の中が回転するんですよ。誰かが買わないと、ものやサービスは売れないでしょ。会社も成り立たない。経済の原則です。消費社会ですからね。当然の話なんですよ」
「つまり、作田さんは、特に際だったことをおっしゃっていないと言うことですね」
「そうです」
「でも、ものを買い続けることのむなしさはありませんか。それで、幸せになれるとは思いませんが」
「幸福の問題は、別問題ですよ。消費すれば、幸せになれるとは限らないです。まあ、買った瞬間は幸せですがね。こんなことで、喜べると思うと、安いものですよ。それに私が買っているものは実用品でしてね。贅沢品ではない。使うものです」
「はい、納得できます。でも、一つのものを買うと、すぐに次のものが欲しくなるでしょ。消費が消費を呼ぶように」
「大いに呼びますねえ。一つのものを買うと、また違うものが欲しくなりますね。それでどんどん買っていきます」
「それは経済観念が薄いのでは」
「私が無駄遣いしていると言うことですね」
「無駄だとは思いませんが、少し買いすぎではないかと」
「でも、欲しくなるんですよね」
「それは分かりますが」
「今度は、もっと考えて買おうとか。前の失敗を繰り返さないよう、賢い買い方をやろうとか、反省すべき点は反省し、失敗を生かしていますよ」
「それはいいのですがね」
「で、どうなんです」
「返済の見込みはありますか」
「あります。今月買いすぎて、ややオーバーしただけです」

   了

 


2008年11月4日

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