小説 川崎サイト

 

朝食

川崎ゆきお



「大根とか、ジャガイモを煮たようなものが、少しあって、炊きたてのご飯にちりめんじゃこをのせてね。こういう朝食がいいんだがなあ」
 ハンバーガー屋の朝メニューを食べながら、増田が木村に言う。
「私もそう思うのですがね、こちらの方が安くて」
「結局、パンでしょ、これは」
「ハンバーガーですよ」
「だから、菓子パンですよ。おやつですよ。こんなもの」
「調理パンでしょ」
「まあ、ご飯に比べれば、副食だ」
 大胆な分け方だなあ、増田さんは。
「こういうのを毎朝食べていると、和食が恋しいよ」
「喫茶店のトーストの方がいいんじゃないですか。そっちのほうがあっさりしてますよ。値段もそれほど変わらないし」
「いや、近くの喫茶店、値上げしましたねえ。こっちの方が安いんですよ。それにボリュームもある。栄養価も高い」
「じゃ、それでいいんじゃないですか」
「だから、たまに普通のご飯を食べたくなると言ってるんだよ」
「牛丼屋の朝定食なんて、どうです。和食でしょ、あれ。鮭と味噌汁」
「朝から、丼飯は量が多すぎて、食べきれないんだ。それに、椅子が高くてね、立ち食いしているようで、落ち着かないんだ」
 増田は背が低い。
「それでね、片手でテーブルを掴んで食べてるんだよ。落っこちそうでさ」
「で、このハンバーガー店に落ち着いたわけですか」
「落ち着いてはいないよ」
「自炊すればどうです」
「大根は一切れでいいんだ。よく煮込んで、醤油がよくしみこんで、それでいて柔らかい。これだけ、鍋で煮れないでしょ」
「ジャガイモと大根、少量煮ればいいんじゃないですか」
「まあ、そうなんだがね」
「ご飯を仕掛けて、炊ける間に出来てますよ」
「出汁がねえ」
「醤油入れりゃいいんですよ」
「醤油だけでいいの」
「十分です」
「君はやったことあるの」
 木村は自炊経験はない。母親がやっていたのを子供の頃見ただけだ。
「作ろうと思えば、作れますよ」
「君は朝、どうしてるの」
「最近は、コンビニで買って食べてるよ」
「買ってきて、家で食べるの?」
「そうだよ」
「ビニールのようなの、剥がしたりするの大変だろ。それに、やたら燃えないゴミが増える」
「まあ、そうなんだけど」
 二人は歳取っているのだが、未だ定番の朝食パターンは出来ていないようだ。

   了


2008年11月6日

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