小説 川崎サイト

 

逆説の成功術

川崎ゆきお



「先生の逆説の成功術、読みました」
「あ、そう、あれは売れなかったなあ」
 牧村と教え子との会話だ。
「いつもそうですねえ。先生の場合」
「だから、あそこに書いてあることの逆をやれば成功するさ」
「それが出来ないから、先生の本、人気があるのでしょ」
「人気はあるが、売れない。だから、失敗だ。もっと売れて、左うちわ状態になりたかったなあ」
「でも、そこそこ売れたんでしょ。本屋でも見ましたよ」
「初版のままだよ」
「そうなんだ」
「執筆時間と印税を比べると、最低時間給にも達しない。牛丼屋でバイトした方が儲かったよ」
「でも、本になったのだから、凄いですよ」
「それは君、いいところをついてるよ」
「えっ、どこを突きました?」
「つまり、本は売れなくてもいいんだよ。本は売るために出版されるわけではない。本が売れるから本を出す。これは近代に入ってからの話でね。本となっておることに意味があり、価値があるんだ」
「じゃ、タレント本は」
「すべてのタレントが本を出しているわけではあるまい。だから、そこそこ価値はある」
「そうなんだ」
「しかし、売れた方がいいがね」
「そうでしょうねえ」
「だから、あの本は読むな。ただの反面教師だから」
「でも、プロは流儀を持つな、なんて、面白かったですよ」
「仕事の流儀ね」
「はい。先生はそれを否定されている」
「流儀とは型だ」
「そうなんですか。型を持たない流儀もあったような」
「だから、癖だ」
「流儀とは癖なんですね」
「そうだ」
「流儀を持った方が成功するんでしょ」
「一般にはね」
「でも先生はその逆を」
「逆説だからね」
「僕なんか、流儀なんて持ってませんよ。だから、あの本を読んで安心しました」
「まあ、自然に身についた仕事上の癖は否定しないよ。ただ、それを狙うなという意味で、否定したんだ」
「自然ですね」
「そう、天然自然」
「結局成功する秘訣は何でしょうか?」
「成功したやつが成功者だ」
「成果主義なんですね。実績が大事と言うことですね」
「それも狙っては取れないさ」
「ますます安心しました」
「流石流石わしの教え子だ」
 
   了 


2008年11月8日

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