小説 川崎サイト

 

冬の人

川崎ゆきお



「寒くなりましたなあ」
「冬ですからなあ」
「私は三年前からずっと冬ですよ」
「それはいけない」
「あなたもでしょ」
「僕は五年目かな」
「そんなにお長い」
「あっという間です」
「変転のうちにです」
「ペテン?」
「ヘンテンです」
「ああ」
「まあ、ペテンもやってましたがね」
「ペテン師?」
「まあ、古くさいだましですよ」
「今じゃ通じない?」
「だから、こうして、冬をやっておるのです」
「私は失敗して、このざまです」
「まあ、ここより下はないでしょうな」
「元気なうちは、まだ、ここでとどまれますなあ」
「最近仲間が増えましたなあ」
「いっとき、減ったんですがね」
「世の中、悪くなったんでしょ」
「景気ですか」
「おそらく」
「まあ、仕事がないので、私は関係なくなりましたがね」
「ここから出たいと思いますか?」
「冬は冷えますからね。出来れば、暖房のある家で、隙間風のないところで、眠りたいですよ」
「それを満たすのは大変ですな」
「金がないとね。仕事も」
「どうです。やりますか」
「やるって、ペテンですか?」
「その気ならね」
「やめておきます。うまくいきそうにないので」
「どうして」
「簡単にできるなら、あなたやってるでしょ」
「まあ、そうだがね」
「で、しょ」
「ははは。図星だ」
「やはり今年もここで越冬ですよ」
「最近釣りをやってましてね」
「釣れるんですか。冬ですよ」
「いるんです」
「連れて行ってくださいよ」
「外来魚ですがね」
「食べられますか?」
「臭いが、焼いて塩を付ければ、なんとな」
「それは、素朴でいい」
「魚釣って、すぐに放す馬鹿がいる」
「ああ、食べないで、また逃がしてやるんでしょ」
「痛いでしょ」
「はあ?」
「魚も口が」
「痛み、あるんでしょうかね。魚に」
「ありますよ。そりゃ。痛いとかかゆいとか」
「知らなかった」
「傷つけただけの話でしょ。そんな釣りは」
「そうですね。いい人だと思ってましたが」
「まあ、外来魚は殺してもいいんですがね」
「増えると困るんでしょうね」
「漁師になった気になりますよ。原始的なね」
「それで、食っていけそうだな」
「だから、引っ越しましょうよ。ここじゃ、水も汚い。川漁師になるんですよ」
「漁民ですか」
「もっと山奥へ行けば、獣や鳥もいるでしょ。食べるものがうんと増えますよ」
「しかし、私はアウトドアはちょっと」
「今もやってるじゃないですか」
「ああ、そうでした」
 
   了


2008年11月15日

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