小説 川崎サイト

 

暖かいホーム

川崎ゆきお



「暖かいね、ここは」
「ここほど暖かい場所はない。だが地獄だ」
「ここは極楽だと思いますよ」
「腹が減ると立ち上がらんといかん」
「その程度は……」
「いや、それも億劫になる」
「じゃ、お腹、空くじゃないですか」
「だから、餓鬼地獄になる」
「それはいけませんねえ」
「何度も空腹で動けんようになった」
「食べるもの、ここに持ってくればいいじゃないですか」
「大量に持ってきているよ。今も多いだろ」
「ありますねえ」
「腹が空くと極楽ではおられんからな」
「トイレは」
「それは流石にここではできん」
「当然ですね」
「その時は動く。まあ、腹が減っても我慢は出来るが、トイレは駄目だ」
「しかし、暖かいですねえ。ここ」
「そのうち眠気が襲う」
「いいですねえ、そのままうたた寝なんて」
「まあ、ほとんど寝ておるような姿勢だがね」
「それで今日伺ったのは……」
「用事か」
「はい」
「ここに入っておると、何もやる気が起こらん」
「それは困りましたねえ。いい仕事なんですよ。協力してもらえませんか。かなりの収入になりますよ」
「それはいいがな」
「いいんですね。引き受けてもらえるのですね」
「春になればな」
「それでは遅いのですが」
「冬場は動けん」
「お仕事は、ここでやっもらって結構なんですよ」
「ここは仕事場だ」
「ああ、そうでしたね」
「しかし、仕事が出来ぬ、仕事場だ」
「じゃ、他に仕事場作りますから、そこへ移動してとかは……」
「いやいや、ここにおるとね、仕事をやる気が失せるのだよ。今も面倒なこと言い出すなあと思っておるところじゃ」
「まあ、仕事は面倒ですからね。でもやらないと食べていけませんから」
 客は二日ほど滞在した。
「どうじゃ、ここの良さが分かったか」
「はい、帰るの面倒になりました」
「よしよし」
 二人はホームゴタツの中でくつろぎ倒した。
 
   了

 


2008年12月3日

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