小説 川崎サイト

 

取り調べ

川崎ゆきお



「どうせ私がやったことになるので、やったことにしておきます」
 室田は犯行を仄めかせた。
「じゃ、認めるのだな」
「それ以外の答えはないのでしょ」
「やったのはおまえだな。認めたな」
 取締官は念を押した。
「他に選択肢はありますか?」
「じゃ、はっきり、私がやりましたと、明言しなさい」
「それで、カツ丼はいただけるのですか」
 取締官は頷く。
「煙草も吸えますかね」
 取締官は頷くと言うより、反応しない。これは否定していないという意味だ。
「先にカツ丼欲しいのですがね。しばらく何も食べていないので」
「早く吐けば楽になる」
「ですから、私がやりましたと言うことに最初からしてますよ。すぐに楽になれるように。早くカツ丼を食べて煙草を吸って、眠りたいのです。今はそれだけがすべての望みです」
「先に吐いてからだ」
「ですから、吐いたことにしておきますと、言ってるじゃないですか」
「言っていない」
「じゃ、どうすればいいのです」
「おまえが加害者であると、自白するんだ」
「ですから、自白したことにしておきますと、言ってますよ。さっきから、何度も何度も」
「その、しておきますとかは、何だ」
「何が、何だなのですか」
「自分から、自白しないといけない」
「ですから、自白したことにしておきますと、言ってるじゃないですか。それが一番いいのでしょ。この空気では。私はやってませんと言ってもいいのですよ。それじゃあなたたちが困るでしょ。私も困りますよ。眠らせてくれないし、恫喝されるし、胸ぐらを掴まれるし。それがいやだから、言ってるんです」
「じゃ、もう一度聞く。おまえがやったんだな」
「誰がおまえなんです」
「おまえじゃないか」
「ほら、最初から私は犯人でしょ。一般市民をおまえ呼ばわりしないでしょ」
「おまえ以外に犯人はいないんだ。状況がそろってる」
「でも、証拠は何一つない。だから自白が必要なんでしょ。だから、協力しているんじゃないですか。さっきからずっと」
「じゃ、君がやったのだね」
「はい、やったとことにします」
「はいの後ろはいらないんだ。はいだけでいい」
「はい」」
「いや、だから、はいだけじゃ、駄目なんだ。私がやりましたと、言うんだ」
「言えば、カツ丼と煙草ですね」
 取締官は頷く
「それ、誰が払うんです」
「それより、私がやりましたと。言うんだ。それで楽になる」
「はい、楽になるため、私がやりました」
「私がやりましただけでいいんだ。もう一度」
「何度も私がやりましたと言われたので、私がやりましたと何でも言ってます」
「くー」

   了


2009年1月7日

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