小説 川崎サイト

 

魔性の館

川崎ゆきお



「魔界の蓋が開くとき、惨事が始まる」
 予言者が言う。
「魔界の蓋?」
 冒険者が聞き返す。
「そうじゃ」
「その蓋は何処にあるのですか?」
「えっ?」
「魔界の蓋ですよ」
「そうじゃ」
「そうじゃ、じゃなく、場所ですよ」
「ある場所じゃ」
「だから、その蓋がある場所を教えてください」
「それは……」
「知らないのでしょ。予言者ですからね」
「いや……」
「知っているのですか」
「古い洋館の地下の暖炉」
「それはイメージですね」
「違う」
「じゃ、場所は」
 冒険者は予言者に地図を書いてもらい、その洋館へ行く。
 洋館は使われていない。無人だ。
 そして地下室に降り、暖炉を見つける。
 暖炉は確かに蓋があった。
 冒険者は暖炉の蓋を開けた。
 しかし、惨事は起こらない。
 そのことを予言者に報告した。
「開けたのか」
「はい」
「惨事が始まるぞ」
「何も起こりませんでした」
「あの暖炉は魔界への入り口。魔性のものを出してしまうことになる」
「何も出てきませんでしたよ。それに惨事って、どんなことですか?」
「惨劇じゃ」
「災いですね」
「そうじゃ」
「でも、魔性のものなど、出てきませんでしたよ」
「まだ開いたのを知らないからじゃ」
 一月後、冒険者は予言者を訪ねた。
「まだ、惨事は起こっていませんよ。魔性のものが出て暴れているとかの噂も聞きません」
「そうか」
「コメントはそれだけですか」
「まだ、この先のことじゃろう」
「いつ?」
「さあ」
 冒険者は予言のことなど忘れて、その洋館に住み着いた。
 魔性のものはまだ出てきていない。

   了


2009年1月11日

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