小説 川崎サイト

 

呪詛祓い

川崎ゆきお



 霞ヶ関の高官が非常に体調を崩していた。
「呪いだと言っておられます」
 秘書が側近に伝える。
「呪い? 何の?」
「呪詛されていると」
 その高官のポストは恨まれる位置にあった。
「誰が呪詛してるというのだ」
「いっぱいいて分からないとか」
「体調を崩されただけだろ」
「お体には問題はないようです」
「それで、私はどうすればよい」
 総裁は側近に呪詛祓いを頼んだようだ。
「私にそんな力はない」
「中国の奥地に…」
「えっ、何? 中国の」
「奥地の山岳地帯に呪詛祓いがいるので、連れてきてくれと」
「難儀だなあ」
 側近は総裁室にいきなり入った。
 総裁は脂汗を流しながらソファーに横たわっていた。
「オメンコ師か」
「私です。松田です」
「早く連れてきてくれ」
「呪詛とは如何なものでしょう」
「早く連れきてくれ」
「その、呪詛祓いをですか?」
「中国の山岳地帯にいる少数民族で、呪詛祓いにかけては天一なのだ」
「ラーメン屋ですか?」
「違う! 天下一の名人だ」
「中国の何省ですか」
「それを調べてお呼びしろ」
 側近は部屋を出た。
「分かりましたか?」
 秘書が聞く。
「あの人には、あんな趣味があったんだ」
「呪詛…とかですか」
「そういう世界観だ」
「やはり呪詛されているのでしょうか」
「あるわけないだろ」
「ですね」
「さて…」
「どうします。呼びますか」
 一週間後、呪詛払いのオメンコ師が霞ヶ関に降り立った。
 そして総裁の体調は改善した。
 側近は秘書に労をねぎらった。
「その衣装、また必要かもしれないから捨てないように」
「はい」

   了

 


2009年1月29日

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