小説 川崎サイト

 

円盤を見た

川崎ゆきお



 坂田は円盤の写真を見せた。よく雑誌やテレビで見かける皿の上にこんもりした物が乗っている円盤だ。
「これが模型だったことはよく知られています」
「えっ。どういうこと」
「君が見た円盤は、これと同じだったのでしょ」
「そうですが。それほどはっきりとは」
「模型を写真で写した物だったことが、分かったのですよ」
「それは知らなかった。でも、僕が見たのは……」
「目撃者の多くは、このタイプの円盤を見ています。もう、おわかりでしょ」
「嘘をついている」
「そうじゃなく、あなたは本当に未確認飛行物体を見たのかもしれません」
「ぼんやりしていました」
「頭がですか?」
「いえ、円盤の形が」
「あの模型円盤ははっきりと写していなかったのですよ。あなたが昔見た写真もそうじゃないですか」
「写真じゃなく、テレビで見ました」
「その写真をでしょ」
「動画です」
「それも、他の人が、あの古典的円盤の模型をビデオで写したのでしょう。鮮明じゃなかったでしょ」
「はい。じゃ、僕がが嘘をついているというのか」
「きっと何かを見たのでしょ。でもそれは、目では映像を結ばないのです。それで、代わりの形に置き換えた。ということです。あなたが知っている円盤のどれかにね」
「じゃ、円盤は見えないのですか」
「見えません」
「じゃ、僕が見たのは何だったのだ」
「空飛ぶ円盤と呼ばれている飛行船でしょう」
「じゃ、僕が本物の円盤を見たことを信じてくれるのだな」
「だから、これ以上立ち入らない方がいいと思いますよ。今説明したように、映像を補強して見る世界ですから」
「どういうことだ」
「まあ、そうすごまないで。あなたの言ってることを疑っているわけじゃなく、忠告です」
「何の忠告?」
「円盤と精神世界は隣り合わせなんです。だから、深入り過ぎると、おかしくなります。それだけです」
「でも、強烈な印象が今も」
「それが奴らの手なんです。それに乗れば、電波塔にされてしまいますよ」
「おお」

   了


2009年3月14日

小説 川崎サイト