小説 川崎サイト

 

謎の塔

川崎ゆきお



 吉田は子供の頃から気になっていた塔がある。
 山の中腹にニョキリと聳え立つ四角く細長い塔だ。高さはビルの七階ほどはあるだろうか。しかし、窓がほとんどないので、何階建てなのかは分からない。周囲に比べるような建物も当然ない。
 吉田の町は山沿いにある。大都市間を結ぶ動脈のような場所だ。
 大人になると、塔のことは忘れてしまった。山と同じように見えるだけの存在で、興味も失っていた。
 その塔は有名国立大学の地震研修所だと言うことも分かったので、謎ではなくなった。
 それでも数回、その塔に近づいたことがある。
 そのときは不思議に感じなかったのだが、塔へ行く道がないのだ。最短距離で塔へ行こうとしたため、偶然道が見つけられないのだと思い、それで済ませた。
 塔は白昼の元に立っている。決して隠されていない。しかし、町から塔へ行く道路がない。また、山の斜面にも道はない。立てたときは、きっとあったはずなのだが。
 高校時代、吉田の友人が塔の直ぐ下まで登ったらしい。
 それによると、斜面の出っ張りにただ単に立っているだけで、周囲には何もなかったようだ。塔の前に道路の痕跡はあったようだが。
 そうなると、子供の頃に聞いた地震研究所は嘘だったことになる。別の物なのだ。
 この山沿いには不思議な塔が他にもある。エレベーター会社が建てた塔で、階上までエレベーターで行けるだけの塔だ。これは広告塔だ。
 それに比べると、地震研究所の塔は大人しく無口だ。
 吉田は市役所に勤める友人に、塔のことを聞くと、廃墟らしい。所有者は山の持ち主だ。
 そして、塔の持ち主はやはり有名国立大学地震研究所となっている。
 しかし、と友人が話した。
「よく見ると、大学の『大』が『犬』なんだよね」
 吉田はそれを聞いたのは最近のことだ。塔内には誰もいないし、誰も使っていないので、廃屋扱いになっている。
 建ったときから、使う気がなかったらしく、取り壊し中になっているらしい。
 だが、未だに取り壊されない、ただのオブジェとしてニョキリと立っている。

   了


2009年3月16日

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