小説 川崎サイト

 

特別な娘

川崎ゆきお



「自分は特別だと思っておるようなんです」
 患者の父親が言う。
「繊細で、傷つきやすいとか」
「娘さんは高校生でしたね」
「はい」
「今度連れて来てくださいよ」
「こういう診療所には絶対に来ません。だから、どう対処したらいいものか、教えていただきたいのです。できれば、何かよい薬でも……」
「何か弊害はありますか」
「弊害? 薬の副作用とか」
「いえいえ、娘さんが何かトラブルを起こしたとか」
「あります。学校側から、注意を何度も」
「どんな」
「自分勝手で、校則を守らないとか。まあ、どれも大したことじゃないので、聞き流していますがね」
「誰が聞き流しているのです」
「家内です」
「じゃ、娘さんの話は、奥様から聞いたことがすべてじゃないですか」
「学校での話はなね。娘は私には話しませんから。でも、家の中で似たようなことがありますから。きっと同じことを学校でもやっているのではないかと」
「それはただの我が儘じゃないですかね」
「いや、娘は特別な何かを持っているんです。特別な人間なんです。あの子の才能を摘むわけにはいきません」
「どんな才能なのです?」
「特別な才能です」
「だから、どんな?」
「その繊細さ、神秘さを生かしたような」
「そういう職業とか、生き方とかがあると言うことですか。具体的に何かやられていますか」
「いえ、特に……」
「過保護だとは思いませんか」
「保護しないとけない大事なものがあの子の中にあると思うのです」
「恵まれた家庭ですねえ」
「いえいえ」
「平日から、こうして来られるのですから」
「名ばかりの取締役ですから」
「まあ、よくあることですよ」
「娘の症状がですか。いや、症状という言い方はよくなり。病気じゃないのですから」
「そう、病気じゃないですよ」
「じゃ、何でしょう」
「だから、我が儘なだけですよ」
「いや、そうじゃなく、我が儘じゃなく、非常に感性の鋭い子でしてね。神秘的な何かがあると思うのですよ。そこを先生から、もっと詳しくお聞きしたいと思いまして」
「その状態の人間は沢山いますよ。まあ、大人になれば、かなり減りますがね。それが可能なのは、それができる環境にいるからです。それだけのことです」
「じゃ、娘は?」
「ごく、平凡なお嬢さんですよ」

   了


2009年4月6日

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