小説 川崎サイト

 

情報強者

川崎ゆきお



 ある地方で大きな地震があり、数日間それが報じられた。
 そこからかなり離れた場所に上田は住んでいた。
 ある日、同僚の木村が電車内で話しかけた。
「凄い地震だったようだね」
「そうなんだ」
「え、知らないの」
 上田はその地震に関して初耳だった。
「被災者大変だよね。借金で家建てた人もいるだろうし」
「そうなんだ」
 車内は空いている。二人は研修を受けるため、昼間の電車に乗っている。
「でも、知らないって、おかしいんじゃない」
 上田は新聞をとっていないし、テレビも見ていない。
 そのことを木村に話した。
「じゃ、インターネットは?」
「パソコンはあるけど、見ていないなあ」
「情報化時代でしょ。これから受ける研修も、情報化時代の話だよ」
「分かってるけど、ニュースは見ないんだ」
「困るよ。どうするの」
「別に」
「困るでしょ」
「見るほうが困るんだ」
「どういうこと」
「見ても何ともできないでしょ」
「それはそうだけど、そういう事件や災害があったことは知ってないと、一般常識的にまずいんじゃない」
「必要なら、ネットで探すさ」
「でも、うち、情報系の会社だよ。よく受かったねえ」
「そんなこと聞かれなかったから」
「じゃ、会社は知らないわけだ」
「ほら、情報に強い会社でも、僕の情報知らないんだから、笑うよ」
「笑ってる場合じゃないよ。テレビぐらい見ないと」
「ニュース見ても、見なくても、あまり変わらなかったから。それに、余計な情報は受けたくないんだ」
「情報弱者になるよ」
「だから、必要ならネットで見るよ」
「でも、この前のあの大きな地震、知らないとまずいんじゃない」
「そのうち話題にも上らなくなるよ」
「じゃ、雑誌や本は読んでるの」
「ぜんぜん」
 木村は唖然とした。こんな同僚とコンビを組むのは損だと思った。しかし、新入社員は二人だけだ。
「じゃ、情報はどこから得るわけ」
「だから、必要なら調べるよ」
「そうじゃなく、普段から情報収集し、アンテナ張ってないと駄目なんじゃない。きっと今日の研修、そういう話じゃないかな」
「そんなこと聞かなくても分かりきった話だと思うけど」
「情報弱者だよ。上田君は」
 意外と、情報に振り回されない上田は情報強者かもしれない。

   了

 


2009年4月26日

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