小説 川崎サイト

 

虎退治

川崎ゆきお



 行く手に虎がおり、これを倒さないと先へは進めない。
 一人の冒険者が座り込んでいる。前方に虎がいる。
 そこへ、巨漢の冒険者が現れた。
「倒せないのか。あの虎が」
 と、聞く。
「ああ、かなり強い。私の今の実力では無理だ」
「じゃ、引き返すのだな」
「いや、虎の向こう側には新天地がある。だから、これを無理にでも乗り越えないと先へ進めない」
「進む必要があるのか」
 巨漢が聞く。
「ここにいても進歩はない。先へ進まないと何も起こらない」
 巨漢は既に虎を倒し、その先へ進んでいた。
「ここも、あっちも似たようなものだぞ」
「見知らぬ土地を見たい」
「それも、すぐに飽きる」
「でも、進歩したい。冒険者として大きく成長したい」
 巨漢はもう十分成長を果たしていた。
「では、俺が倒してやろうか」
「お願いしたい。ただ……」
「何だ」
「一緒に倒したことにしたい」
「いいだろう」
 巨漢は巨大な槍を構え、虎に向かう。初心者冒険者はその後に続く。
 虎は巨漢の槍ひと突きで倒れた。
 初心者は倒れている虎に刀を振りかざした。
「突くんだ」
 初心者は刀で虎の心臓を突いた。
 しかし、それ以前に虎は事切れていた。
「私が倒したことになるのかな」
「そうしておくよ」
 初心者冒険者は虎の向こう側の大地を踏むことができた。景色が少し変わった。森が少なくなり、荒々しい岩山が見える。
「ありがとう。これで、新天地が開けた」
「そうか、だが、きりがないぞ」
「え?」
「どこまで行ってもこの冒険は終わらないんだ」
「果てしなく続く冒険、それは素敵だ」
 数年後、あの初心者冒険者が虎の前に来た。今はもうベテラン冒険者となっている。
 虎の前で座り込んでいる冒険者がいる。
 昔の自分を見る思いだ。
 冒険者は初心者冒険者に近づいた。
 そして、あのときの巨漢冒険者と同じ行動に出た。
 それを巨漢冒険者が後ろから見ていた。
 もう老齢で冒険者ではなくなっている。
 さらに、その後ろに……

   了


2009年4月29日

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