小説 川崎サイト

 

北帰行

川崎ゆきお



 余所から来た人が多い町だ。
 北国行きの列車や北へ向かう夜汽車の終着駅でもある。
 また、北へ向かう旅人が多く来てしまい、溜まってしまう町でもある。
 西村も一人孤独に夜汽車に乗ったのだが、同じような人がいて、逆に賑やかだ。
 とりあえず北に向かったのがいけなかったようだ。
 駅前にそういう人向けのおひとり様宿が多くある。
 来てすぐに帰るのはなんなので、西村はその中の一軒に泊まることにした。長旅で疲れ、布団の上で寝たかったのだ。
 なぜ北へ向かおうとしたのか、なぜ北へ向かう旅人になったのかははっきりしない。ただ何となく、北へ向かう夜汽車に乗ったのだ。
 寝不足気味で朝日を浴びると、流石に夜のロマンは消えている。
 そういう客が多いのか、宿屋は早朝から客引きしているほどだ。
「朝食、でますが、どうします」
「寝る前なので」
「お食事後、お休みになられてはどうですか。宿泊料に含まれています」
 西村は広い座敷に通された。食事用の部屋らしく、お膳が並んでいる。
 西村は適当な場所に座った。
 どの客も一人旅らしい。
「あなたも、北へ来た人ですね」
「はい、北へ向かった人間です」
 横の男がは西村に話しかける。
「多いですよ。ここは」
「え、何が多いのですか」
「あなたのような人が」
「僕は旅行者ですよ」
「でも、ここ観光の町じゃないです。終着駅です」
 西村は、ただ単に北へ向かいたかっただけだと、正直に話した。
「私もそうですよ。もう二ヶ月になりますかね。長逗留です。特に用事はないですからね。動けないんですよね」
 他の客も実はそうらしく、誰かが食事に入って来ると、軽く会釈し合っている。
「ここはまだ軽い方ですよ」
「はあ」
「ここは北の果ての駅ですがね。北の果ての町じゃない」
「はいはい」
「北の本当の果ては山なんです。そこに小さな村がありましてね。そこにも集まってるんですよ。重症です。そこは」
「行ってみたい気がしますが」
「いやもうビッシリですよ」
「旅人がですか」
「そっそっ。都心部より人口密度が高い。あまりにも人が溜まるので、宿泊施設も増えてるようですがね。ここのほうが利便性がいい。町ですからね。軽症者はここで十分ですよ」
 西村は朝食を食べ、そのまま眠り、夜に起きてきて、そのまま都心へ帰る特急列車に乗った。
 乗客のほとんどは、来たから帰る旅人でいっぱいだった。

   了

 


2009年5月22日

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