小説 川崎サイト

 

社員啓発

川崎ゆきお



 いかに仕事をこなすかのレクチャーを吉田は受けた。受けたのは四人で、若手社員だ。語り手は元ベテランビジネスマンで、今はコンサル会社の社員だ。
 つまり、会社はコンサルを入れ、社員教育に力を入れていた。と、見えるが、これは形式で、どうやらコンサルのセールスに乗ってしまった感じだ。
 会議室から出てきた四人は、自販機前で雑談となる。
 四人とも頭の痛い話を聞かされた感じで、テンションが下がっていた。
「重荷だなあ」
「いや、言うだけは言えるさ。ビジネス書に同じこと書かれていたよ」
 吉田はビジネス書マニアだ。
「ネタ元は見えてるよ」
 吉田は缶コーヒーとたばこを交互に口にしながら言う。
「吉田君詳しいねえ」
「みんな自分の仕事をやっているのさ」
 吉田は先ほどの元ベテランビジネスマンの身の振り方を考える。医療関係のセールスマンだったようだ。
 では、なぜコンサルになったのかが問題だ。うまくいかなかったので、転職しただけのことかもしれない。そういう人間の話など、真実味はない。うまくいっているのなら、今もセールスを続けているだろうし、出世しているはずだ。
「あの人の言うとおりに仕事をやると、大変なことになるなあ。スタミナが持たないよ」
 一人が言う。
「だから、あの人もスタミナ切れで、辞めたんじゃない」
 吉田が答える。
「じゃ、真に受けないことか」
「静聴するだけでいいんだよ」
「でも、反応がないとか、元気がないとか言われたじゃないか」
「それはセリフさ。コンサルトとしてのセリフで、本気じゃないさ」
 吉田は言い切る。
「でも、あんな元気のいい話聞くと、心配になってくるなあ」
 そこに四人の上役が現れた。
「どうだ。勉強になったか」
 四人は「なりました」と口々に言う。
「そうか、いい方向だな」
 上役も会議室の隅で、聞いていた。
「うまかったね。あのコンサル」
 四人は反応しない。
「すごい語り手でした」
 無返答では失礼なので、吉田が発言する。
「そうだろ。そうだろ」
 上役は大きく頷く。顎が首に陥没しそうだ。
「宿題が出てる。あの話を聞いてのレポートを提出すること。いいね」
 上役は顎を引いたまま立ち去った。
 四人は退社時間までかかってレポートを書いた。
 上役はレポートを読むため残業した。読むだけではなく、コメントを付けることをコンサルから言われていた。
 上役は、コンサルを入れてしまった専務の、その弱き性格に注目した。

   了

 


2009年5月26日

小説 川崎サイト