小説 川崎サイト

 

憑き物の話

川崎ゆきお



「最近どうですか?」
 記者が妖怪博士に聞く。この記者は定期的に妖怪博士を訪問しているようだ。上からの命令で妖怪博士付きになっているわけではなく、自発的なようだ。
「近年、妖怪の減少は甚だしい。それに関して、やっと理由がわかりだした」
「どういうことでしょうか」
「厄介な現象を妖怪にせいにする方便が失われた」
「そうですね。科学の発達で」
「そこまでなら、誰もが想像し得る事柄だ。だから、特に言う必要もないのじゃがな。語ることがなくなったので、言ったまでじゃ」
「たとえばどんな現象でしょうか」
「精神的に面倒なことになっている人間に対し、魔物がついているとか言っておっただろ。狐が憑いておるとか」
「それは、以前から言われていますね」
「だから、わざわざ言う必要はないが、もう一つ付け加えるなら、精神的におかしくなった、または先天的におかしい人間に対する扱い方じゃ」
「そうですねえ。今は、妖怪のせいにできないですから、直接病名を言わないと」
「だが、それが本人も、周囲も、病気だとは思っておらん場合、困るのじゃ」
「そういう性格の人、個性だと解釈するでしょうね」
「実は、それが病状じゃとすると、話が違ってくる」
「なるほど」
 記者は適当に相づちを打つ。どこかで聞いたことがあるためだ。
「じゃが、本人に、あなたは病気ですよとは言えない。病気と言うより、先天的な場合は、特にそうだ。そういう人が社会の中で活躍しているとなると、周囲は迷惑だ。見た感じは普通の人間なのだからな」
「でも、ノーマルと病人との違いは何でしょう」
「その境界線は曖昧じゃ。性格とか気性とかに含めてしまうこともできるからな」
「なるほど」
「長くそういう人と接しておると、その異常性に気づく」
「はい」
「こういう場合、悪い霊が憑いておるとし、ご本人を傷つけないような仕掛けがあった」
「でも、それは非科学的ですねえ」
「その悪い霊とは、心霊側から言えば、下等動物が憑いておるとかだろうかな」
「でも、それも失礼になりませんか」
「悪いのは憑き物で、本人ではない」
「今、そんな言い方する人あまりいませんね」
「そういう発言をしておる人間も怪しまれる。おかしな人間で、その人こそ憑き物が憑いておるのではないかと思われる」
「お話ありがとうございました」
「もういいのか」
「はい」
「わしにも何か憑き物が憑いておると思うておるじゃろ」
「いえいえ」

   了


2009年6月13日

小説 川崎サイト