小説 川崎サイト

 

鬼退治

川崎ゆきお



 路地の奥に小鬼のようなものうじゃうじゃおり、それを退治してほしいとコンビニ前で傭兵を募集している老人がいる。彼が嘘をついているのは確かで、その幻覚を積極的に運用している。
 だが、それが幻覚ではなく、全くの嘘かもしれない。
 夜中、コンビニ前でたむろしている若者は話だけは聞くが、気が触れた老人とみて、相手にしない。
 別のたむろグループにも声をかけるが、若者は反応しない。これが大の大人でも、同じだろう。
 老人をからかうため、ある若者がつっこみを入れた。
「小鬼なんですか」
「そ、そ、小鬼」
「小さな鬼?」
「小学生より背は低いかな。幼稚園児ほどの大きさと言う方が正しい」
「何匹?」
「多い。うじゃうじゃいる」
「百匹ほど?」
「数えたことはないが、それぐらいいてもおかしくない」
 つまり、小学生の集団下校の団体様ほどの数なのだ。
「小鬼はどんなスタイル」
「鬼のスタイルだ」
「じゃ、どんな姿?」
「裸だが、何か付けてる。上半身は裸だ」
「全員男子なの?」
「そうだ」
「女子がいるなら行ってもいいよ」
「鬼は女子だ」
「女の鬼もいるんじゃない」
「いるかもしれんが、わしは目撃しておらん。それより、怖くて逃げるばかりで……」
「その鬼を退治すればいいの?」
「治安上、必要じやろ。わしは、町内の見回り組のボランティアもやっておる」
「じゃ、その路地の人はどうしてるの」
「鬼は夜中に現れる。みんな寝静まった時刻だ」
「じゃ、鬼はどんな悪さするの?」
「路地を走り回っておる」
「じゃ、鬼ごっこだ」
「治安上、許せん」
「被害はないんだね」
「被害者が出る前に退治する必要がある。いや、それよりも、鬼は退治するに決まっておる」
「じゃ、鬼退治募集ってこと?」
「そうじゃ」
「じゃ、がんばって募集するんだね」
 若者は最初から信じる気がないのか、立ち去った。
 老人は、少しだけ手応えを感じた。こうして話を聞いてくれる人もいるのだ。
 翌晩も、老人はコンビニに前で立っている。

   了

 


2009年6月16日

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