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デジ式とは、デジタル処理一般の意     2004年1月12日


■シャープ ザウルス SL-C860


 シャープのザウルスはPDAと呼ばれる手の平サイズの電子手帳の部類に入る。

 ザウルスSLシリーズにはキーボードが付いているが、決してアクセサリーではなく、非常にタイプしやすいように出来ている。

 同社の電子辞典と同じような形をしており、ノートパソコンを縮小したような形だ。

 携帯電話とノートパソコンの中間と言うには語弊があるが、独自の世界を打ち出している。
 そのポジションは、電車内や喫茶店などで、気楽に出せるので携帯電話に近い。
 机の上に置いて使うマシンではなく、両手に持って使うマシーンだ。
 携帯電話は片手で操作出来るが、ザウルスは両手で持ち、膝の上に乗せる感じが似合っている。

 重さは200グラム以上あるので、携帯電話よりは重いが、片手で持ったまま操作も出来る。このあたりは1キロ前後のノートパソコンには出来ない芸当だ。

 喫茶店では小さなノートパソコンなら出せるようでも、なかなか出せないのは面積を取るためで、そのため乗っている物を片付けないといけない。
 ノートは日常の空間を少し変えてしまう感じで、携帯電話のように、さっと取り出して、使うようなことは出来ない。
 ところがザウルスならテーブルを必要としない…と、言うより、テーブルは逆にキーボード上での入力では邪魔になる。ちょうど携帯電話をテーブルの上に置いて使うほうが使いにくいのと同じだ。

 つまり日常生活上での妨げにならないで使えるマシーンなのだ。

 ザウルスSLシリーズでのキータイプは、両手の親指で行い、それを前提としたキーボード配列となっているし、そういう持ち方になっている。
 当然手書き入力も可能なのだが、一度このキーボードを使うと、手書き認識には戻れない。
 よほど器用な人でない限り、キーボードを見ないで、親指だけでのタイプは無理だが、それが幸いしてか、誤入力しにくくなる。
 またタイプ中は文章を考えることに集中出来る。
 キーボードを見ないで、モニターの表示を見ながらのタイプよりも、言葉を発しながら、語るように書いて行く感じがある。
 この感じは少し説明しづらいが、まあ、携帯電話でボタンを押しながら言葉を出して行くのに近い。
 インプットした文字をリアルタイムで目で追いながら、次の言葉を出す感じではなく、たまに確認するためにモニターを見る感じなのだ。
 また、ザウルスでは至近距離で文字列を見るため、キーボードを見ているほうが、目の疲労度は少ない。
 このあたりは、ディスクトップパソコンと比べた時の欠点のようなものを、逆に利用して、長所に変えている。

 ザウルスSLシリーズは、テキスト打ちで重宝する。
 僕は初代が出た時から使い、ほとんどの文章はザウルスで打ち込んでいる。当然仕事で使う原稿も、ザウルスで打ち込み、ザウルスで修正し、完成させている。
 部屋にはフルキーボードのディスクトップはあるし、17インチの液晶モニターもあるし、一太郎もワードもあるし、高機能テキストエディタのWZもあるしマイフェースもある。
 しかし、一番落ち着いて文章を打ち出せるのがザウルスなのである。
 ほとんどの文章を、ザウルスを買ってから、ザウルスで作っていたことが、その実用性を証明している。

 日本語テキスト入力環境としては、部屋のパソコンのほうがスペック的には優れている。フルキーボードや日本語変換もATOKなどを使えば変換率も高い。
 ザウルスにはオリジナルの日本語変換プロセッサーが付いているが、自動変換はないし、辞書登録時での品詞分けもない。一応学習機能は働いるのだが、素朴な変換をする。
 辞書登録の画面が、ATOKなどを使っていると新鮮に見えるのは、登録画面に行くと、既に登録されている言葉の一覧が見えるので、削除などのメンテナンスがしやすい。

 ウインドウズの日本語変換に慣れてしまうと、ザウルスの日本語環境は逆に新鮮だ。どちらかというと携帯電話での日本語変換に近い。

 テキスト打ちとは書式のない、つまり印刷での表示を考えないで、文字情報と改行や文字コードだけを含んだ形式で打ち出したファイルだ。
 ザウルスにはメモ帳があり、拡張子をTXTにすると、エディタソフトのように扱える。
 実際には、フリーソフトのエディタがあるので、そちらを使う方が好ましい。文字コードや改行コードなども指定出来るのは、ネットで使うプログラムであるCGIなどのソースがウインドウズの標準のコードや改行コードだけとは限らないからだ。
 ザウルスはリナックスベースの上にザウルス的な環境を作っている。リナックスはネットに強いとか言われているが、ザウルスで日記を書く程度なら、無縁な話だろう。
 リナックスのことは意識する必要はないので、リナックスが分からなければザウルスは使えないという問題はない。

 日本語環境の話に戻す。
 ウインドウズでエディタやワープロを起て、言葉を紡ぐより、ザウルスの画面のほうが落ち着くのはどうしたことだろうか。
 先に述べたように、最小限の機能しかないのだが、それが逆に余計なものを見ないで集中出来ることにもなる。
 桁数や行数は、それなりに把握出来る。ワープロ的書式が必要なら、ワードと互換性のあるワープロや、Excelと互換性のあるソフトも入っている。
 ディスクトップで作ったExcelのファイルをそのまま表示出来る。

 テキストを打つだけなら、大きな画面はいらない。また適当に行数と桁数が見えればそれでよい。
 ザウルスの画面はちょうどよい大きさで文字が表示される。
 ウインドウズの画面と違い、画面の大きさは固定されており、いつもその大きさで文字を打ったり、読んだり出来る。
 以前なら色々と画面の大きさなどを変えたり出来ることが便利だと思っていたのだが、固定幅で固定された画面のほうが落ち着く。

 日本語テキストやhtmlのタグを入れながらの編集も可能で、そのファイルをそのままftpでアップしたり、ダウンロードし、更新することも出来る。
 このサイズで、ホームページの更新が出来るのは、考えてみれば凄い話だ。

 テキストファイルのほとんどは印刷という出力ではなく、メールやホームページに使うためのソースであることが多い。
 また、ネット上での任意のディレクトリ内をファイル置き場にしていることもある。
 それらをザウルス側から操作出来るので、ファイルの出し入れが出来る。

 部屋のパソコンとのやり取りは、二種類のメモリーカードを同時に突き刺すことが出来る。SDカードが使えるので、もう一つのカードスロットルに通信カードを差すことが出来る。

 パソコンとのやり取りはメモリーカードでやるのが一番簡単だ。

 ザウルスが用意している接続コードでパソコンからザウルスの内蔵メモリやカードなどにアクセス出来る。
 パソコンからそれらのカードや内蔵メモリーの情報を吸い出せる。

 便利なのはマイクロソフトのオフィスのメールや住所録やメモ帳やスケジュールなどを同期する機能だ。
 同期後、外出すれば、最新の受信フォルダ内のメールを読むことが出来る。
 同期なので、変更されたメールだけが修正される。ファイルをコピーするより早いのが同期のよいところだ。

 ここまでくると、さすがに携帯電話よりは使いやすいことが分かるはずだ。

 ザウルスと同じジャンルのPDA機は他にもあるが、キーボードで素早く、しかも、コツを覚えなくてもタイプ出来るのはこのSLシリーズ以外にはない。

 喫茶店などで、ノートパソコンを持ち込んで、何をやっているのかを考えてみると、それがザウルスの機能で出来ることなら、これ程軽快な話はない。

 喫茶店でノートで、ビデオ編集はしないだろう。部屋の高機能ディスクトップマシーンでないと軽快にビデオ編集も出来ないはずだ。
 また、絵を書くにしても、マウスとかを喫茶店に持ち込めるだろうか。ペンタブレットはもっと無理だろう。
 ノートパソコンでも色々なことが出来るが、喫茶店などで実際に処理しているファイルを考えれば、ザウルスで処理出来るファイルで済むのなら、鞄が軽くなるはずだ。

 Excelのファイルが読んだり編集出来ればノートパソコンを持ち歩く必要はない。またインターネットメールを普通に送受信出来れば、ノートでもザウルスでも同じことだ。

 ザウルスにはハードディスクはない。そのため衝撃でのクラッシュの心配がないし、静かで音も出ない。
 1ギガのカードや500メガのSDカードがあれば、動画でもしない限りパンクしないだろう。

 ザウルスなどのPDA機は起動が早い。
 というより、起動そのものがない。電源を入れればすぐに前回の画面となる。
 ザウルスのロゴマークが入った起動画面を見るには、ソフトリセットか、ハードリセットでもあるバッテリーを抜かない限り見ることは出来ない。
 モバイルパソコンで、少し何かを見ようとしても、起動の遅さと、任意アプリの起動の遅さで待たされるため、気楽にノートの蓋を開ける気になりにくい。
 ポケットから携帯電話を出す感じの気楽さがザウルスなどのPDA機にはある。
 ただ、他のPDA機に比べ、リナックスの上で動いているザウルス世界なので、若干遅いかもしれないが、C-860になってから確実に早くなっている。たっぷりとメモリも積んでいるためだろう。またアプリのチューニングも進んだのだろう。一年以内に何台もアップ版を出しているのだから。

 パソコンでふだん何をやっているのかを考えると、ザウルスでも出来そうなことも多い。
 例えばインターネットメールや、テキスト処理とかなら、ザウルスでもこなせる。

 ザウルスの位置は、微妙なポジションだ。後は好みということになるのだが、これ程使いやすいハードキーボードは他のPDAは追従出来ない。
 死んでしまったHP社のマシーンか、NECの筆箱スタイルのマシーンぐらいだろう。シャープもノートパソコン程の大きさのを出していたが、もう姿を見かけない。今で言うウインドウズポケットPCを乗せたマシーンだ。
 ここで注目したいのは、小さ過ぎるノートはタイプがしにくいことだ。
 これは、フルサイズキーボードと比べてしまうためだ。
 ザウルスは両親指でマシーンの下を持ちながらタイプするという、携帯電話的なこなし方をしている。
 このキーボードの快適さからか、ザウルス自慢の漢字手書き入力の影が薄くなってしまった。
 手書き認識のミスの苛立ちはキーボードタイプミスの比ではないほど、イライラするものだ。

 さて、ザウルスSL初代を買ってから、ノートパソコンを持ち歩かなくなった。ポケットに入るのだから、鞄のことを考える必要さえない。
 200グラム少しの重さは、1キロ前後のモバイルノートの比ではない軽快さで、持っていないのと同じだ。
 ここまで減量しないとモバイルとは言いにくいし、また常時携帯しにくい。
 携帯電話を重いから、荷物になるからと言って持ち出すのを嫌がらないだろう。ザウルスはそのレベルにある。

 喫茶店内で、テーブルを使わないでメールチェックやブラウジング出来るのは携帯電話レベルだ。どちらも手で持つ感じだ。
 ただ、ザウルスをテーブルの上に置いた時、それは非常に小さなオモチャのようなミニチュアのようなノートパソコンに見える。これぞまさしく小さな恐竜ザウルスの姿で、SLシリーズになり、やっとザウルスの名にふさわしい形を得たというべきだろう。
 さらに、詳しい人はリナックスの呪文打ちも出来るので、バッチファイルで自動処理も書けるはずだ。当然ネット上にも入り込める。
 多くのサーバー機がリナックスOSで動いているのだから。

 また、ザウルス用に作られたフリーソフトも豊富にあり、インストールも簡単だ。
 それらを組み合わせて、使いやすいソフトで環境が作れる。
 ザウルス用ATOKがあれば言うことはないが、それは愚痴だろう。シャープの書院ワープロだと思い、オリジナルの日本語変換の素朴な変換もよしとするほかない。どうも携帯電話の日本語変換に近いような気もしないわけではない。

 さて、ザウルスにはノートパソコンにはない、もう一つのよい面がある。
 それは小さいので、買ったことが分からないことだ。これは手ごたえの問題ではない。
 ノートパソコンはポケットには隠せないが、ザウルスは隠せる。
 さらに、その価格が分かりにくいことだ。
 PDA機は2万とか3万で売っている。また電子辞書と似ているので、目立ちにくいのだ。

 ザウルスを買い、全く相性が悪かった場合、始末しやすい。ノートパソコンは小さいとはいえ、存在感がある。

 ザウルスには翻訳ソフトが入っている。国語辞典も入っている。形は電子辞典と同じだし、シャープ製ならキーボードも近いだろう。
 電子辞典が売れるのは英語を勉強中の人が多いためだろう。
 買った後、ザウルスのメイン箇所で失敗しても辞書として使える。
 辞書を買うのに反対する人はいないだろう。

 ザウルスにもカード式のデジカメを突き刺すことが出来るが、数年前のもので、その後新製品を出していない。これはどう頑張っても素晴らしいとは言えない。
 シャープは携帯電話カメラに200万画素やAFまでつけているのだから、ザウルスにもカードで供給して欲しい。ザウルスの素晴らしい大きな液晶ファインダーで見たいものだ。

 しかし、携帯電話カメラでSDカードに保存出来るタイプなら、ザウルス側で簡単に見ることが出来る。

 ザウルスSLシリーズは電子手帳のカテゴリーを越え、テキストファイルの読み書きを軽快に出来る端末に至っている。もうこれは端末というより、携帯電話から見れば母船のレベルだ。

 パソコンは環境設定が上手く行かなかったり、ドライバが動かなかったり、思わぬエラーが出て、何夜も原因究明でむだな時間を過ごすことが多い。

 パソコンの多機能さは何でも出来るようでも、使う側はその一部しか使っていないはずだ。

 また、本当にやろうとすれば、ハイスペックなマシーンや増設が必要となったり、パソコンより高いソフトを買うはめになったりする。

 その点、ザウルスは大した機能はないが、その気になればずっと使える機械だ。ソフトもフリーソフト作家が地道にアップ版を提供してくれる。

 バッテリーもネットに繋がなければ、かなり持つ。予備のバッテリーを鞄に入れておけば、バッテリー切れの不安も減る。
 また電源コードは携帯電話と同じタイプで、非常に小さく軽い。
 メモリーカードを突き刺し忘れても、内蔵メモリーは十分大きいので、テキストファイルやExcelの表ぐらいなら、内蔵メモリーにバックアップをとってもいいほどだ。
 
 現在、もうワープロ専用機は生産中止され、販売もない。
 その昔、パソコンか、ワープロ専用機かの選択肢が大真面目で雑誌などで掲載されていた。
 キャノワードや、エプソンワードバンクなど、初期のワープロはモニターでの表示文字数は、今の携帯電話以下だった。ほとんどタイプライターのようなものだ。
 文章の長さも限界があり、内蔵メモリーのみという機種が当たり前で、出力はプリントだった。
 そんな環境でも文章を打ち、編集していた。
 その非力さを人の脳がフォローしていた。ほんの数行しか表示されない液晶の窓を見ながら、世界を作っていたのだ。
 ここでよかったのは、逆にその狭苦しさが落ち着けたということ。内容に集中出来たということだ。

 パソコンや進化したワープロ専用機の広い画面を与えられた時は、紙の大きさに驚いたものだ。
 しかし、本当に落ち着いて集中出来たのは、タイプライターのように、ひたすら打ち続けるだけの単純な仕掛けのマシーンだったかもしれない。

 ザウルスの持つこの臭みはパソコンにはない、強靭な固まりを感じる。
 ザウルスの値段で、安いパソコンの本体が買える。その意味で、これは非常に贅沢な道具なのだ。
 それを可能にしているのは、ザウルスのハード面だろう。
 この形は使い込めば非常に手に馴染むマシンである。

 ノートからザウルスへの道は軽快で、肩の荷が下りた感じだ。
 では、ザウルスからノートへの道はどうだろうか。

 部屋のパソコンとほぼ同じことが出来るノートを出先に持ち込んだほうが分かりやすいのは確かだ。
 部屋で扱っているファイルで、ノートでは読めても、ザウルスでは読めないものがある。
 だから、どうしてもノートでないといけない場合は、ザウルスは中途半端な端末となる。

 ザウルスからノートへの移行は、当然考えられる。ノートからザウルスへ、そして再びノートへと抜けるパターンだ。

 ザウルスでは物足りなく感じ、色々出来るノートに戻る感じだろう。

 ノートも年々薄く、軽くなっている。見た感じ、それなら鞄にすっと入りそうな気がするはずだ。
 日本語変換も、常に最新のものが使える。ハードデスクの容量はメモリーカードの比ではない。
 写真や動画やAVジャンルのファイルを持ち歩ける。
 このあたりは、結局使用目的の問題だろう。

 ザウルスにはザウルスの世界がある。これはハードとソフトがウインドウズ搭載マシーンとは異なるためだ。

 これはデジカメと同じで、似てるようでも機種により世界が違う。
 パソコンの場合は、ウインドウズが乗っていれば、ほぼ同じものだ。同じソフトを使っていることになるので、どのメーカーのノートでもデスクトップ機でもスペック的な違いがあるだけで、際だった違いはない。

 しかしザウルスになると、他のメーカーから同じようなものは出せない。クリエとザウルスとでは全く違うものだ。
 特にザウルスSLシリーズになると電子手帳の領域を越えてしまうため、独自の世界がある。

 特にテキスト打ちに関しては、今までになかった領域を走っている。

 つまり、ザウルスとの相性は、ふだん作っているファイルと絡んでくる。
 ぴたりとはまれば、幸せな出会いとなる道具だ。

2004年1月12日


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