川崎フォトエッセイ  その308  遠望    ←前 →次  HOME

 田畑が広がる平野部では、村や町が遠望できた。市街地になると、町と町との境界線が見えなくなる。その町の輪郭が見えないのだ。隣町との境が道路一つ、または壁一つで仕切られている。お隣さんはよその町の人になる。町単位ではなく、お隣が別の市の住人である場所もある。

 市街地では境界線が曖昧で、地域性が薄くなる。まあそれは村落を基準にして見るからだ。市街地にも自治会は存在するが、昔の村落ほどの共同体意識はない。職業も出身地もバラバラな人達が集まっているのだから、当然だろう。

 昔の基準や、自分の生まれ育った場所での基準が通用しなくても、ついつい当てはめてみたくなる。  僕らは複数の共同体に所属し、随時切り替えて暮らしている。個人の持つその種のネットワークは、接続場所によっては人格も切り替わる場合もある。

 何々村の誰それというような見晴らしのよさは、市街地で住む限り期待できない。