川崎フォトエッセイ  その328  風景の上書き    ←前 →次  HOME

 家が古くても、塀が新しいと、違和感が生じる。もしそれが映画の撮影とかで写す場合なら、時代考証が問題になる。だが現代劇なら問題はない。

 たとえば昭和三十年代の映画を作ろうとしても、それが残っていそうな町並みなど存在しない。どこかに今の部品が使われていたり、屋根瓦の向こうに高層マンションがそびえていたりする。

 逆に今風な町並みの中に、昔の残骸が残っていることもあり、その部分を懐かしんだりする。

 何かを固定したいと思う気持ちがあるものの、今は常に流れていき、固めることは見捨てたり凍結させることになる。

 固まってしまったような古い記憶も、今の視点から見ると、書き直される。だが、上書きされたくない情報もあることも確かで、そのためあえて思い出すのを避ける場合もある。