川崎フォトエッセイ  その330  記憶と記録    ←前 →次  HOME

 古い建物がなくなっても、その記憶は知っている人の中に残る……と、単純に考えるはずだ。

 しかし、思い出そうとしなければ、その記憶もないに等しい。古い写真とかは、記憶を呼び起こす良い材料となる。もうその建物や景観が現実に存在しないのなら、写真を手がかりにするのが手っ取り早い。

 写真は記憶された現実である。写真そのものが現実的な記憶媒体である。ただ、この場合、記憶ではなく「記録」だろう。

 写真という記録を見ていると、それを手がかりにして、見る側の記憶を引っぱり出してくれるようだ。その場合でも、そこであぶり出された記憶はパソコンのメモリの中で再現されているような感じで、電源を切ると、消えてしまう。

 思い出した記憶を保存したくても、その媒体がない。結局は引っぱり出しやすいインデックス的なものを記録しておくしかないのだろう。