川崎フォトエッセイ  その586  もう一つの現実      HOME

 僕らが見ている目の前の現実には独自の立体感がある。その奥行きは製図的なものではなく、幻想的なものだ。

 現実と幻想の区別は明快だが、リアリティーのかけ方で、幻想的なもののほうに現実的な意味を見いだすことが多い。それは目の前のものを見ているのではなく、自分自身の中の何かにレーダーを当てているからだ。

 自分にとっての現実らしさと、誰が見てもそうなっているところの現実とではずれがあるものの、そのずれを気づいていないわけではない。

 自分だけが抱いている現実感で生きていくことは不可能で、社会生活はできないだろう。つまり駅で切符も買えないだろうし、タクシーにさえ乗れないだろう。

 この現実ではなく、自分だけが感じるもう一つの現実という幻想はプラスアルファ的な色彩で、そこにリアリティーを見いだす行為は趣味趣向程度のものにすぎないだろう。